2025年12月10日

【富士宮市長による不登校に関する発言についての意見書】

NPO法人登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク

NPO法人フリースクール全国ネットワーク

NPO法人多様な学びプロジェクト

 NPO法人登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク、NPO法人フリースクール全国ネットワーク、NPO法人多様な学びプロジェクトの3団体は、2025年12月、静岡県富士宮市の須藤秀忠市長が市議会において「不登校の原因は親にある」「学校へ行けないことは悪いことだ」等の発言を行ったことに対して遺憾の意を述べるものです。その後「言い過ぎであった」「取り消す」と述べられ、市長が発言を撤回したことは一定の評価ができるものの、当該発言が社会に与える影響の大きさ、そして不登校の子ども・若者およびその家族が受けた心的負担は、撤回によって直ちに解消されるものではありません。

 本意見書は、3団体(NPO登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク、NPOフリースクール全国ネットワーク、NPO多様な学びプロジェクト)が、今回の発言の問題点と、不登校をめぐる社会的理解について改めて明らかにするためにまとめたものです。

(1)不登校の原因を「親の責任」と断定することの問題性

 不登校の背景は多様であり、学校環境・人間関係・いじめ・心身の不調・発達特性・家庭状況など、複数の要因が複雑に重なりあっています。行政の長が「親の責任」「しつけの問題」といった形で原因を単一の要因に矮小化することは、当事者や保護者に不当な負荷を与え、支援につながる道をかえって狭める危険があります。不登校の統計と同時に、いじめ、いじめ重大事態、校内暴力、子どもの自殺の数値が発表されています。年々増え続けています。これらの数値を見ても不登校の原因を子どもと親にのみ帰するのは現状から外れている言わざるを得ません。すでに国の方針や教育機会確保法でも、不登校を「問題行動」として扱うべきではないことが明確にされています。

(2)「学校へ行けないことは悪いこと」という価値観の固定化

 不登校は、子どもが自らの心身を守るために選び取る行動である場合も多く、そこに「善悪」を持ち込むことは、子どもの尊厳を損なう行為となります。この価値判断は、当事者を一層追い詰める、支援にアクセスしづらくする、社会に偏見を再生産するという深刻な影響を及ぼします。市長による発言は、その立場の影響力の大きさゆえ、不登校や多様な学びを選ぶ子どもたちへの偏見を強める結果となりかねません。

(3)発言の影響は「撤回」で消えるものではないこと

 自治体のトップの言葉は、市民・学校現場・保護者に強いメッセージとして伝わります。そのため、たとえ発言が撤回された場合でも、すでに広がった偏見や誤解、当事者が受けた痛み、社会的な後退の懸念は残り続けます。今回の意見書は、あくまで「何が問題だったのか」「社会として何を大切にすべきなのか」を明確にするためのものです。

 不登校の子ども・若者・家族が安心して生き、学ぶことができる社会をつくることは、行政・学校・家庭・地域が共に担うべき責務です。不登校の子どもを持つ親を対象とした全国調査(登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク・2022年)では「不登校の原因が自分にあるかもと自分を責めた」66.7%という結果が出ています。市長の発言は撤回されたとはいえ、不登校についての見解は変わりないとのことです。このように自分を責めている親たちがこの発言からさらに傷ついたという体験が残ってしまうことを憂慮します。今回の意見書は、市長本人への批判を目的とするものではなく、今回の発言が示した課題を社会全体で考えるため、そして当事者の尊厳を守るために、3団体の立場を明確にするものです。不登校をめぐる理解が後退することなく、むしろより豊かで多様な学びが尊重される社会が広がることを願います。         

※上記の意見書についてのお問い合わせは、下記にお願いします。

NPO法人登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク

 共同代表 中村みちよ 中林和子

info@futoko-net.org